58人が本棚に入れています
本棚に追加
…*ユリSide*…
『ユリ、今日は10時15分』
って、タイトルで本文のないメールを送って来たのは、ジン。
なのにぃ!っんもう!
自転車をこぐ。ペダルをぐっぐっと力一杯に踏みこむ。
まずい。まずいってば。絶対に遅刻だもん。
駅前から海の方まで続く道を自転車で走っていく。大きな交差点を通り過ぎる。
居並ぶ団地と、小学校、中学校の間の道をまたまっすぐに走る。
ジンと約束した場所へ。
右手側の古い団地群にちらりと目をやる。別世界みたい。
知らずに減速している。
この築47年にもなる団地たちは、本当に建て替えになって、ここ、今とは違う風景になるのかなぁ。
その昔、在日米海軍辻堂演習場だったらしい広大なエリアに
すごくたくさんの団地が整然と建っている。
まるで、気まじめな巨人達がきっちりすっきりと、永遠に乱れることのない列をなしているみたい。
子供の頃、迷子になったっけ。ジンのうちに行こうとして……。
あの時、どこ見ても同じ形、同じ色の団地が並んでて、その団地は空に届くくらいに高く見えて、
自分がどこにいるのか、わからなくなって、
永久に出られない迷路に迷い込んだような気がして、怖かった。
小さくなる液体を飲んだアリスみたいな?
あの団地からにょきっと腕が生えてきて、ひょいとつまみ上げられて、ぽいと団地の屋上に上げられちゃったら?
もう絶対にジンに会えないし
きっと誰にも気づかれないでそこで死んでしまうって
そうやって団地お化けにさらわれた子供達の死体が、あの団地の屋上にたくさん転がってるって、
そんな……変な想像したんだ。
すっごく怖くなって、走り回った。
見つけた公園の、トンネルみたいな遊具の中に隠れた。
それで、心配したジンが自転車で探し回って、見つけてくれた時は、ほんと嬉しかった。
泣いたんだっけ?あの時
最初のコメントを投稿しよう!