57人が本棚に入れています
本棚に追加
/324ページ
鋭い一言で私の心を撃ち抜く。
さすが、30年来のたった一人の親友。
私のアルバム。
今までの出来事のほぼすべてを胸に収め、知っている。
確かに……。
「……そうかも」
「だから……良かったよ。じゃあ、ね」
電話を切る。
試してみる。
声なき声で。
こっちを向いて……。
新倉さんは振り返り、こちらに歩いて来てくれた。
ロビーでもフロントでも、私の少し先を新倉さんは歩く。
時々、きちんと着いて来ているか確認するように小さく振り返りながら。
エレベーターでは開いた扉を押さえて私を先に乗せてくれた。
二人きりの空間。
「心配ですね」と新倉さんは言った。
心配ですか?ではなくて、心配ですねと言ってくれたことが嬉しかった。
母のことを同じように考えてくれている。
そんな風に思えた。
「はい。でも新倉さんがいて下さるから……。大丈夫です」
延命治療を拒んだ母は、徐々に状況が悪くなっている。
これまでも何度となく危なくなっては面会に行き、そのたびにぎりぎり回復していた。
今回もそうなるかもしれない。
だってつい2週間前は、あんなに元気そうだった。
それでも担当医からはそろそろ心の準備をと言われていた。
時期の悪いことに夫の弟がハワイで挙式することになっていた。
初めての海外旅行を幼い息子も楽しみにしていたし、なかなか交流を持たせてもらえなかったおばあちゃんよりも、気持ち的にそちらを優先してしまうことは理解できた。
最初のコメントを投稿しよう!