3:Accomplice

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それでも、せめて形式上だけでいいから「残ろうか?」という一言が欲しかった。 そう言ってくれれば「たぶんまだ大丈夫だから」と言って送り出せたろうに。 夫は「まだ危篤ってほどでもないんだろ?今回も」と言った。 「俺、長男だし、弟の結婚式くらい出てやらないと親もうるさいしな。長男の嫁が来ないのもカッコつかないけど、事情が事情だから皆も許してくれるよ。俺からもうまく言っとくから」 その言葉に傷つかなかったと言えば嘘になる。 奈々枝にこの話をしたら「信じらんない!」と怒ってくれた。 昼時のファミレスで3杯目のコーヒーをがぶりと飲み干した。 「なにその優しぶったもの言い。どうせ面倒なことが嫌なだけでしょう」 目の前にいる人を叱るように、奈々枝は言った。 「たぶんそうだよね」 宅配便の受け取りに認め印を押すように、私は呟いた。 奈々枝は、私の感情を上手に吐きだしてくれる。 怒りを表に出せない私の代わりに。 それは、私の心の一番奥の底にある。 在るのは知っているけど、触れない。 きっと一度それを表に出してしまえば、全てを壊してしまう。 それに、毎回、そのたびにお見舞いに来てくれていた新倉さんが今回も一緒にいてくれる。 そう思えば、心はさらに楽になった。 小康を保っているとはいえ意識がはっきりしない母の隣で2泊した。 大部屋で横にはなれなかったから、椅子に座ったままだ。 良く眠れなかった。 前日もお見舞いに来てくれた新倉さんは、私の顔色を見て「眠れていますか?」と聞いた。 「……いいえ」
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