3:Accomplice

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「先生が今は落ち着いているとおっしゃってましたから、少しお休みなった方がいいですよ?」 私はここに留まると言うと新倉さんは心配そうに顔をしかめた。 「近くにきちんとしたホテルがありますよ?そちらにお泊りになったらいかがですか?今晩は私がこちらにおりますから」 「一人でいると……」 「古瀬さんに倒れられては」 「だったら」 何かあるといつも見せてくれる、その気遣わしげな顔は本物だよね? 優しい瞳に私を映したまま、新倉さんは「はい?」と言った。 「だったら……一緒にいて下さい。できれば、同じ部屋で」 そんなことを言うつもりはなかったはずなのに、思わずそう口走った。 新倉さんは、ほんの一瞬、何かを推し量るように、目を細めた。 病室の、カーテンで区切られた狭い空間で少しずつ、死に向かっている母の傍らで、私は何を言ってるんだろう……。 だけど、そのきっかけを与えたのは母の言葉だ。 私は母を見た。 顎が下がって僅かに口が開いている。 閉じた目は落ちくぼんでいた。 活発な精神活動があるようには、とても見えない。 周囲に気を配ることなんて、もうまったくできない状態だろう。 でも、聞こえているかもしれない。 「もしかしたら……もう、お会いする理由がなくなりますよね」 「ああ……」察したように小さく頷く。「では、そうしましょうか……」ごく小さな声で新倉さんはそう言った。 新倉さんが母の後見人なってから7年が経つ。 兄の晴信は、その頃、多額の借金を抱えていた。 そのためか同居する母の年金や貯金を勝手に使い込み、母の生活をひっ迫させていた。 母からも兄からもお金の無心がたび重なり、困り果てた私は、あちこちに相談していた。 市役所、保健所、法律相談、タウンページで探したクリニック、思いつくところすべてに。 兄の状況が普通とは思えなかった。 今まで知ってた兄とは別人のようだった。 言ってることも辻褄が合わなくて、行動にも整合性がなかった。 たぶん、精神的な病を患っている。 病院に行こうと言ったら余計に怒らせてしまって途方に暮れた。
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