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窓から外を眺める新倉さんの背中を見つめる。
胸の奥でふつふつ湧いてくるたくさんの感情の泡がぴちぴちと弾けている。
何か言った方がいいような気がするのに、言葉は何も浮かんでこない。
ただ、胸の奥のふつふつぴちぴちという感覚だけを、私は抱いて新倉さんの背中を見つめていた。
「もうすぐ日が暮れますね」
振り向かずにそういう新倉さんの声は穏やかで、怯えも恐れもなかった。
コートを脱いで振り返る。
優しく慈しむように微笑んで、ゆっくりと私の前に来た。
今度こそ何か言わなくちゃ、と思うのに開いた唇からは何も出てこなくて、私は彼の足先に目線を落とした。
その私の頭を撫でるように「先にシャワーを使わせて頂いて構いませんか?」と新倉さんの声がした。
驚いてぴょんと思わず顔を上げると、新倉さんは改めて緩く微笑む。
道を尋ねるように首を傾げ、私を見下ろしている。
「不躾で申し訳ありません。夕べ、トラブル対応に追われてしまって……」
また甘やかな香りが鼻先に漂った。
「あ。はい。どうぞ」
新倉さんはふわりと新たな微笑を唇に乗せた。
「もし怖くなってしまったら、私がシャワーを使っている間にここから出てもいいんですよ?古瀬さん」
そう言うと、私が答える前にさっと歩き出し、少しもぎこちなさがない、なめらかな動作でクローゼットにコートを掛けてバスルームに行ってしまった。
ぽつん。
取り残された。
なんとなく慌てて、私もコートを脱ぎ、クローゼットに掛ける。
空調が効いてるはずなのに、肌寒く感じて私は自分の体を抱いた。
部屋に一人。
整えられたベッドを見ていたら内側でぽっと体温が上がった。
ここでこれから……どうなるのかな……。
何してるんだ?私……。
何を仕出かそうとしてるんだ?
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