3:Accomplice

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「終わりがどこかわからないからねぇ」 「……うん」 小さな体をちょこんと車いすに乗せて、母はじっと海に顔を向けていた。 私が子供の頃、母はもっと大きかった。 時間が母からいろいろなものを吸い取って行ってしまうんだ。 母を見下ろして、そう思った。 「晴信は、まだ明日が続くと思っているうちに死んだんだろうよ」 「……そうだねぇ」 「愛?」 「うん?」 「あんた、何だって古瀬君と結婚したの?」 「うーん。まぁ子供だったから?」 「私はねぇ……命の営みに、罪はないと思うんだよ」 「うん」 「あんた、悔いを残すんじゃないよ?」 「はいはい」 「どんなことでも過去になる。黙って、胸にしまったまま……生きて行くことは、できるんだから」 「そんな経験あるの?」 母はいったん口をつぐんだ。 不思議なリズムを刻む波音。 ゆるゆると吹いていた風が、止まった。 「……死ぬのは、難儀なことだねぇ。晴信さんは……どこにいったんだろうねぇ」 2年前に兄が亡くなったのは、腹部大動脈りゅう破裂が原因だった。 その時、兄は、手術を控えて母が入院中だったから、たった一人で家にいた。 まだ本格的な夏を迎える前の、梅雨の終わりの頃だ。
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