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階段を挟んでお隣の家の玄関が向かい合ってた。
ジンの家の玄関を開けた時、ちょうど正面の玄関も開いて、ジンはお隣のおばあちゃんに大人みたいに挨拶してた。
それで、ジンの家に上がって感じたのは、匂いが違うってこと。
ジンの家は、甘いお花の匂い。
正面の玄関が開いた時に漂ったのは、お線香の匂い。
同じ形の家なのに匂いが違うって不思議に思った。
蚕の巣箱みたいなそこに、それぞれの家庭がある。
それぞれの喜びや悲しみがある。
なのに、ひとたびドアを閉ざし鍵をかければ、皆同じ、ただの箱みたい。
中で何が起きても、外からはうかがい知れない。
今、壁の塗り替えが済んだ団地は、ちょっとだけおしゃれなレトロ感を醸し出している。
団地は古いけど、小学校も中学校も近くて激安スーパーマーケットもあって、海にそのまま出られる広大な県立公園もある。
JRの駅まで行くバスも通ってる。
駅に出れば東京まで乗り換えなしで1時間くらい。通勤だって便利。
だから、ここは古い割にけっこう人気があるエリアなんだって。
地元に愛される小さな不動産屋の、2代目のてっちゃんは言ってた。
竣工当時は、きっと夢のマイホーム的な感じ?
横長に立てたこんにゃくみたいな四角い建物。
こんにゃく……。
ん?
髪の毛を鼻先にくっつけて、くんくんと嗅いでみた。
えーと?大丈夫、かな。
ついさっきまで、てっちゃんの大好物もつ煮込みを仕込んでたから髪に匂いがついてないか、ちょっと心配になった。
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