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「私もそう思うけど?」
笑顔で言いながら、手術が無事に済んだらなんて切り出そうかと考えていた。
そろそろ、帰って食事の支度をしないといけない時間になって私が病室を出る時、新倉さんも「私もそろそろ」と言った。
「あら。二人いっぺんに帰っちゃうの?寂しいじゃない」
「お母さん、もう少ししたら夕食が出る時間だから、寂しがる時間あんまりないでしょ?」
「寂しいから食べない」
「そんなことおっしゃらないで召し上がって下さいね。体力落ちると手術が延びておうちに帰る時期が延びちゃいますよ?」
「……そっか。晴信が寂しいか。じゃあ食べる」
「うん。そうして」
病室のドアを閉めて、新倉さんと目を見交わした。
彼は穏やかに微笑んだ。
よく出来ましたねと誉められてるような気持ちに、なった。
「古瀬さんはいつも火曜日に面会にいらっしゃると聞いていましたので……」
別れ際のその言葉の、先を考えながら電車に揺られバスに乗り、歩く。
玄関のドアに鍵を差す。
古瀬さんはいつも火曜日に面会にいらっしゃると聞いていましたので、私も今日、面会に伺いました。
しっくりくるのは、これでこれ以外には思い浮かばない。
何度もそう考えているうちに本当にそう言ってもらったような気がしてきた。
一人で向き合わなくて良かった。
もし、今日、一人で面会に行っていたら、私は母との話の途中で涙を流してしまったかもしれない。
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