3:Accomplice

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「……はい」 「その時、信頼されてるんだなって。その頃はそんな言葉を知らなかったと思うんですけど、ともかく、そう思ったんです」 「そうですか」 「父が出て行って、母と兄が派手に喧嘩するようになっても、それでもなんとか家に居場所があったのは、あの子のお陰だったんです。 でも、歳とって……。 だんだん弱ってくるのがわかって最後は止まり木に止まるのもやっとな感じで、よれよれで、餌も食べなくて ……新しい水をやったらゆっくりゆっくりと止まり木から降りてきて、くくくって水を飲んで、またゆっくりゆっくり止まり木に戻って、その夜、力尽きました。 朝見たら下に落ちてて、飲んだ水を吐いた後が敷いた紙にシミになってて……。 高校1年か2年の時です」 「ええ」 「母はその朝、顔を合わせるなり言ったんです。ぱさって聞こえたって。 あの子が死んで止まり木から落ちた時の、ぱさっていう軽い音が耳についてるって。 まるで自分だけが辛くて悲しいみたいな言い方で、なぜか私は非難されているような気がしたんです」 「……そうでしたか」 「その後、しばらく私は元気が出せなくて。そうしたら母は私に二千円くれました。代わりの鳥を買って来いって。 空っぽのかごを見ているあんたが可哀そうで見てられないって」 きゅっと、返事の代わりのように新倉さんは一瞬、私の手を握り締めた。 「私は言われるままに同じ色のセキセイインコを買いました。 でも、同じじゃなかった。 同じように可愛がれないし同じようには懐いてくれない。それで思ったんです。 私が欲しかったのは代わりの鳥じゃない。 ただ母に一緒に悲しんで泣いて欲しかったんだって」 「そうでしょうね」 「退屈な話ですよね……」
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