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「いいえ。古瀬さんのことがよくわかるような気がします」
やだ。
泣きそうになる。
また深呼吸をする。
新倉さんはそれ以上何もいわず、ただゆっくりと私の隣で寛いで呼吸をしているみたいだった。
まだ足りない。
もっと話してしまいたい。
もしも聞いてくれるのなら。
「結婚して、猫を飼いました」
「猫を?」
「まだ、手の平くらいのサイズで、男の子に生き埋めにされそうになってたのを知り合いが保護して、それを預かるという形で」
「前にお住まいのところは確かペット禁止だったのでは?」
「はい。だから、内緒で」
「ばれなかったんですか?」
「その頃は、私もフルで仕事してほとんど他の住人と顔合わせたりしなかったので。悪いなって思うこともなくて」
「ああ。なるほど」
「……その猫、ちびのくせに、威嚇ばかりしてノミだらけで疥癬症ではげてて、だから薬をつけたりノミ取りしたりで……。
チャラって名前でした。
茶とらだったから縮めて。
チャラから見れば私は嫌なことばかりする人だったんですよね。
そうしないとチャラが困るだろうからしてたんですけど」
「私の仕事にも似たところがありますね。なんとなくですが」
新倉さんの声に共感の響きを聞いて、私は安心して話を続けた。
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