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その頃の気持ちに折り合いをつけようと私は改めて深呼吸をした。
新倉さんが私の手を励ますように撫でて、そっと握ってくれた。
「子供が産まれたら、それまでと同じようにチャラをかまってあげられなくて。
心のどこかでちょっと面倒くさいなって思ってたんです。
チャラが病気になって毎月三万円位、病院代でかかるようになって。
そしたら古瀬君が、これをチャラが死ぬまで続けるの?って言ったんです。
その時は私、仕事をしていなかったので、収入は古瀬君にお任せだったし、稼ぎ頭が猫ごときに毎月三万円も使わないでくれっていうなら、もう仕方ないのかなって、
でもそう思うのに時間もかかって……、
チャラは結局私だけの猫で、古瀬君の猫じゃなかったんですね。
チャラは露出した自我のようでした。
だから、見限られたように感じて、本当は怒っていたんです。
古瀬君に。
だけど、そんな風には言えないし。
古瀬君は言いました。猫でも犬でも毎月病院の世話にならないと生きていけないって言うのは、不自然だろ?って
自然の中にいれば、自然と死んでいく。
それがその寿命ってことだろ?って……。
納得はできなかったけど、その後で、毎月三万円も猫に使って生活を切り詰めるのは嫌だって言うので……。
金の切れ目が命の切れ目なんだなぁって。
それで病院に行くのをやめて薬もやめて、そしたらだんだん、ふらふらになっていって……。
毛もぼそぼそになっていって……。
買い物に出るたび、子供を公園につれて行くたび、帰ってきたら死んでるのかもしれないなぁって思っていました。
最後は、なんだか死に待ちをしているようで……。
最後の夜は、わかりました。
呼吸が今までと違った。
それでもチャラとよべば小さく小さくにゃあと返事して……、
まだ生きているのか確かめるように、私は名前を呼んだんです。
そうしたら、だんだん声が出なくなって、それでも尻尾をちょっとだけ動かして、応えてくれるんです。
もうだめだろうなってわかってた。
なのに、子供を寝かしつけに行って、そのまま寝てしまって。
朝、チャラは冷たくなっていました。
たった一人で」
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