3:Accomplice

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「悲しいですね」 静かな声だった。 痛いところをそっと慰撫されたような気持ちになった。 「わかっていたのに」 「ええ」 「どうして最後まで」 また痛みがぶり返してくる。 「最後まで」 同じイントネーションで新倉さんが言葉を重ねる。 その間に私は泣きそうな自分をぐいと締めつける。 しばらくの沈黙を私たちの呼吸が満たしていく。 「……いてあげなかったんだろうって。 一人だけで逝かせてしまった。 あの子の命に応えるなら、抱いて、腕の中で見送るべきだったのに……。 ありがとうって伝えて……。 この世界から消えていく瞬間を、きちんと記憶しておかなくちゃいけなかった。 でも、逃げたの。 子供を寝かさなくちゃって言い訳して。私は逃げたの。 あの子にとってはもう本当に取り返しのつかない、やり直しのできないことだったのに。 私は自分勝手に、それを先送りにしようとした。 許されるだろうって甘えて。わがままに。 そんなことできないって知ってたのに……本当は」 「だから、ですか?」 「え?」 「こうして、お母様のために残ったのは」 「……そうかもしれません。 亡くしてから、いくら悔やんでも取り返しがつかないって、 あの子は私に教えてくれたんです」 「……そうですね」 思わず小さく笑った。自嘲の笑いだった。
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