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新倉さんが静かに吐き出した息が、肌に触れたような気がした。
もしかしたら、私がなぜ笑ったのかまで察しているのかもしれない。
「それなのに……全然、生かせなかった」
愚かしいことに、繰り返した。
歩み寄ることを厭わしく思って。
言い訳した。酷いことしたんだからって。
「古瀬さん、あれは……晴信さんのことではご自分を責めたりしないでください」
ああ。やっぱりそうだ。
これはどんなカラクリなんだろう。
思考の細かな糸が互いに絡み合っているみたいに、言葉にしない思いまでを読み取りあっているような感覚。
もっと話していい?
心のどこかで問いかければ、新倉さんの指にわずかに力が込められた。
「……新倉さん、全身麻酔って経験あります?」
「……いえ。ないですね」
「あれ、凄く不思議な感覚です。
点滴の冷たい液体が体を流れるのがわかるし、鼻の中でくすりの匂いがするし、
始めぜんぜん普通に意識があって、やだ、このまま麻酔がかからなかったらどうしようって思ってたのに、
気付くと、すっかり終わってて、ちゃんと麻酔かかったんだなぁって……」
「初めて聞きました。そうなんですね?」
感心するような声音で新倉さんが言った。
心がほぐれていくような感じ。
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