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「息子は、寝室で眠っていました。
後で息子に聞いたら、ママがちゃんと寝かせてくれたって。
私、ぜんぜん記憶にないのに。
帰宅してからもまた飲んだみたいで。それも覚えてなかったんですけど」
「ご主人は?」
「出張で」
「危なかったですね」
「え?」
はぁと新倉さんがため息をついた。
一瞬、ひやりと胸が冷えた。
目を上げて新倉さんを見る。
新倉さんの瞳が翳っているような気がして、胸が重くなった。
こんな話、嫌ってこと?
「……辛かった、ですね」
そう言って、新倉さんはふわりと私の頭を撫でる。
辛かった。その過去形の言葉があの時の感情をくるりと包んでくれた。
うん。小さく頷くと、にこりと新倉さんが笑ってくれた。
流産のせいにしたくなかった。
でも、誰にも言わずに全部、始めからなかったみたいに振舞ってたのが辛かった。
家にいれば常に息子がいて一人になれる時間もなかった。
夫の実家にも行かなくちゃいけなかった。
泣ける場所がなくて、胸の中にたまった涙でパンパンになって苦しかった。
「古瀬さん、しっかりし過ぎるのも考えものですよ?」
初めて新倉さんの個人的な考えを聞いたような気がした。
そうなのかもしれないと思った。
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