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「仕事で忙しかった奈々枝にも、しばらく会えなくて。どこにも心を解ける場所がなくて」
「一度、お会いしましたね。晴信さんのご葬儀で」
「ええ。奈々枝はいつも行くファミレスで……ばかみたいに……泣いて」
「いいお友達がいらして良かった」
「一番奥の、海の見える窓際の席でした。台風が近づいていて、うねる海面が大きく上下して」
風が叩きつけるように吹いて、煽られて飛ばされていくコンビニ袋を目で追ってたっけ……。
「飲みたいなら付き合うからって。自分を壊すような飲み方、ダメだって」
「……その通りです」
決して大きな声ではなかった。
でも、硬く引き締まった声に緊張感があった。
息子を叱るときに出す声音に、似ているような気がした。
そっと、新倉さんの顔を見る。
初めて会った日のように、眉を下げている。
目が合うと悲しそうに頷いた。
「流産の……そのせいって言うのはずるいし言い訳に使うのは卑怯な気がして、
でも、あんな風に意識を失うまで飲んだのは、初めてでした」
ぎゅうっと新倉さんが私の手を握る。
鼻の奥がつんとして目頭も熱い。
自己憐憫は、醜い。
醜い私を見られたくなくて、目を閉じる。
その時、ぽつっと何かが私の手に落ちた。
目を開けて新倉さんを見ると、泣いていた。
「良かった……」
「え?」
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