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「古瀬さんが、それで……死んでしまわなくて……良かった」
ああ。だめだ。決壊。
泣き顔が可愛い歳じゃないのに。
涙を流す新倉さんは、ゆっくりと体を私の隣に横たえた。
おでこに、新倉さんの手が伸びてくる。
つ、とその手が止まる。
「おでこに触っても、いいですか?」
「?……はい。どうぞ?」
幼子を慈しむような手つきで新倉さんは私のおでこを撫でる。
「ほっぺに、触ってもいいですか?」
「あ……はい」
両頬をその両手で包み込まれる。
温かい。泣けるほど。そっと、深く息を吐きだした。
「耳に触れてもいいですか?」
返事の代わりに頷くと、新倉さんは甘く微笑んだ。
耳を撫でられる。
ぞくりと背筋が震えた。
「唇は?」
「あの?」
「ん?」吐息のような声。
「……いちいち、聞かないでください。すごく……恥ずかしいんですけど」
私の目を見つめて、唇を開いてゆるりと笑う。それは初めて見る、暗く濡れた笑みだった。
「お返しですよ?さっきの」
「え?」
私の目を見つめたまま、額、耳、首筋を、するするとなぞった新倉さんは、唇の形を確かめるように撫でた。
ふわりと瞳の奥が解れる。
「嘘です。私が一つ先に進みたくなるたびに、確認しないと、古瀬さんが嫌だって言うタイミングがなくなっちゃいますよ?」
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