1:DEEP SEA

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 やらなくちゃいけないことが、たくさんあるんだよね。  わかってるよ。そんなこと。でも、わかってるけどさ……。  今日、誕生日なんだけどなぁ  あたしの……。  え?まさか……忘れてる、とか?……ないよね?まさかね。      一瞬、てっちゃんに電話しようかと思った。  だけど、仕事の邪魔をしたら悪いかって思って、止めた。  ともかく、今は行かなくちゃ。  ペダルに足を掛ける。前を向く。  と、白いメタリックカラーのビーチクルーザーが爽やかにフルスピードでこちらに向かってくるのが見える。  薄い紫色のサングラスをして、笑って軽くこちらに手を振っている。    「ユリ!」  「ジン!」  ざぁっと軽くスライドするように、ジンは私の前でビーチクルーザーを止めた。  ブルーのスキニーデニム。  赤茶色のエンジニアブーツ風ブ―ティ。  薄手のメタリック紫のダウン。セミロングの髪を軽く一つにまとめている。  ふわりとバラの香りを漂わせるジン。  「ごめん。ジン」  「だと思ってたから、ユリに待ち合せようって言った時間は15分ずらしてたの」  「え?」  「10時15分ってメールしたでしょ?私が来たのは、10時半」  「えーそうだったの?やだジンったら」  「うん。なのに、今、10時52分だけどね」  「え、えへへへへ」  「っていうか、ユリ、ちゃりで大丈夫なの?」  「うん!全然!」  「そう?……無理してない?」  「うん!へーき!」  「じゃ、行こう」  ほら、やっぱり。ジンは怒らない。  二人で並んで自転車をこぐ。  県立公園を突っ切って海沿いのサイクリングロードを目指す。  ジンに会うのは2週間ぶり。  「なんか、今日のジンってかっこいいよね」  「ユリが女子なかっこしてくると思ったからね」
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