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ふわっと抱き締められて、泣いた。
もう次はない。
ここを出たら今までと同じ距離感に戻らなくちゃ。
私は責任を果たすべき相手と暮らす。
いつもと変わりない日常を重ねる。
母が亡くなれば、もう会う理由は存在しない。
知ってしまった蜜の味を、思い出し思い返して、また呑みこんで生きるんだ。
後悔はない。
後悔は、しない。そう決めた。
「愛さん、あなたは私にとって特別な人です」
ほろほろと落ちる涙を新倉さんは優しく拭う。
「いつか……」
胸の奥でなされた会話の続きのように、新倉さんは呟いた。
その先の言葉を、私は知っている。
知っているけど……
「いつか」なんて、頼りないものは知らぬ間に時間が吸い取っていってしまうんだ。
それでも「いつか」と約束したい。
無音の声が届いたように新倉さんは言う。
「一人じゃありませんよ」
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