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視線を感じて目を上げると、穏やかに悲しみを映した新倉さんが私を見て、ゆっくりと瞬きと共に頷く。
私と息子の会話を、静かに見守っている。
奈々枝はハンカチで目元を抑えながら、私の肩を抱いてくれた。
こじんまりとした密葬だった。
火葬場に同行することを奈々枝は礼儀正しく辞去したから、新倉さんと私、息子、夫で立ち会った。
火葬の後、夫は自ら位牌を持った。
息子に遺影を持たせた。
遺骨の入った骨壷を、私と新倉さんで持つことになった。
一瞬、視線が絡み、決して解かれることなく互いを結んだ。
気付かれることなく。
「どんなことでも過去になる。黙って胸にしまったまま生きて行くことは、できるんだから」
あの日、母から聞いた言葉を、私は絶対に忘れない。
「命の営みに罪はない……か。愛のお母さん、すごいね」
いつものファミレスで奈々枝はがぶりとコーヒーを飲み、私の顔を見て笑った。
「うん」
「いろいろあったのにね」
「そうだね」
「ていうか、位牌?一番軽いやつじゃん?」
奈々枝に突っ込まれるまでもなく、私もなんとなく変だなぁと思ってはいた。
「血縁優先じゃないの?そういうのって」
「……うん。でもまぁ他に誰もいなかったし」
「確かに。愛のお母さんから見ても、愛と新倉さんに持ってもらった方が嬉しいかもね」
「そうそう」
「……で?どうだった?」
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