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言われて、なんとなく自分の姿を見る。
白のハーフコートの下には桜色のミニ丈ニットワンピ。キャメルのニーハイブーツ。
「ユリ、ヨソミしない」
「はぁい。でもさ、ほんと懐かしいね。二人でサイクリング」
「あの頃はしりとりとか、しながら走ったよね?」
右手に海を見て走る。
海上には、ボードに座って波待ちするサーファーが何人か、ぷかぷかしてる。
子供の頃からそこに植わってる防砂林は、きっと始めはまっすぐだったのに、何十年も風になぶられ続けてたんだ。幹も枝も風向きに沿って曲がってる。
緩やかな曲線を描くサイクリングロードは、海岸線に沿っている。
サイクリングロードのくせに、砂浜から飛んできて堆積した砂のせいで所々、自転車では走りにくい。
ジンはビーチクルーザーだから砂の上でも全然いい。楽勝で行ける。
だけど、あたしのはシティサイクルで、細いタイヤはすぐ砂にとられて、うまく進めなくなっちゃう。
そのたびに自転車から降りて押さなきゃいけなくて、疲れちゃう。ジンも当たり前のようにあたしに合わせて自転車を降り、押している。
「代わってあげてもいいけどね?」
「でもジンのビーチクルーザーだと、足、届かないよ」
「うん。残念だね」ジンは笑った。
しばらく行くと、ほとんど砂浜と変わらないくらいに砂がたまった場所に差し掛かった。
「うわぁこれはひどいね」
「うん……」
ジンはあたしを見てふっと笑った。
「ユリ、ちょっと待ってて」
「え?」
ジンはビーチクルーザーでざっざっと砂を蹴散らして走り、かなり先のアスファルトのところで停めた。
たったったっと軽い足取りでこちらに走ってくると、あたしが頑張って押していた自転車のハンドルを取る。
「ほら、ユリは気をつけて歩きな」
軽々と押していく。
「ありがとう。ジン」
「ま、ユリだからね」
ジンにそう言われると、ちょっとくすぐったい。小さい頃からだ。
いつでもジンは助けてくれるの。まるでナイトみたいに。女の子だけどね。
残念。もしもジンが男の子だったらって、てっちゃんに出会う前の、何回かの失恋のたびに思ってたのは、絶対に秘密。
「あ。そうだ!ねぇジン、知ってた?」
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