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――夢なら覚めてほしいと思った。
コンビニ帰りの夜道、俺達を取り囲む黒スーツの怪しい奴ら。
この目が正常に機能しているのなら、連中の手には拳銃が握られていて、それを俺達に突きつけている。
言っておくが、ここは日夜銃弾が飛び交う紛争地でもなければ、大統領の住まう官邸周辺でもない。
何の変哲もない住宅地だ。
……いや、こんな黒スーツの連中がいる時点で『何の変哲もない』は当てはまらないか。
「……マジかよ」
あまりに非現実的な光景。息が詰まるほどの衝撃。
呼吸することを思い出すと同時に、寒気で真っ白に白んだ吐息が漏れる。
少し置いて、ようやく言葉を口にすることができた。
普通に生活していて、拳銃を持った黒スーツに取り囲まれることがあるだろうか。
断言しよう、まずない。
そりゃあ組織から金なり情報なり持ち逃げした犯人とか、マフィアの大親分を暗殺した狙撃手だとか、それ相応の肩書きがあれば頷ける。
状況的には何が何でも頷きたくない気分だが、そうであれば認めるしかないだろう。
しかし、しかしだ。
俺は会社勤めのしがないサラリーマン。
これのどこにそんな要素があるだろうか。
目だけを動かして横を見る。
『俺達』という表現でもうお気づきかと思うが、俺は一人ではない。もう一人連れがいる。
流れるように滑らかな黒髪をお下げにした、小学生でも低学年くらいと思しき女の子。
さっきからトレンチコートの裾をつまんできて、俺の後ろに隠れるようにしている。
ある事情から一時保護している状態だ。
十中八九、あの黒スーツ達の目的はこの子だろう。
俺の勘がそう告げている。
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