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「だっ、だいじょうぶ。こんな人たち、みつはがやっつけてあげるから」
と、気丈に振る舞ってはいるが明らかに怯えている。
声は震えてるし、立つ足も覚束ない。
今にも腰を抜かしてしまいそうだ。
無意識なのだろう。
俺の後ろに隠れるようにしているのがいい証拠である。
「……」
俺はどうするか迷っていた。
この子を引き渡して楽になるか。
口封じとか言って危害を加えてくる可能性は否めないものの、あの黒スーツ達相手に大立ち回りするより余程安全だ。
この子には悪いが、所詮他人。自分の命と他人の命、どっちが大事かなんて比べるまでもない。
――いつも、こうならないように心がけてきた。
交友関係は広く浅く。相手に深く立ち入らないし、相手にも立ち入らせないようにしてきた。全ては厄介事に巻き込まれたくないから。
そう、まさにこんな状況に巻き込まれないためだ。
何よりも厄介事を嫌うのが俺――八重坂真優の全てじゃないか。
「っ……」
何も迷う必要なんてない。
そのはずなのに。
「おじさん……?」
不安げに瞳を揺らせたあの子――三葉が呼びかけてくる。
いつもの俺なら『まだおじさんじゃねえ!』と声高に言い返していただろう。
だがそんな事どうでもいい。
今はただただ、取り縋るような声と、コートの裾をつまむ手から伝わってくる震えに、頭を打ちつけられるかのような衝撃を覚えていた……。
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