プロローグ

3/3
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「だっ、だいじょうぶ。こんな人たち、みつはがやっつけてあげるから」  と、気丈に振る舞ってはいるが明らかに怯えている。  声は震えてるし、立つ足も覚束ない。  今にも腰を抜かしてしまいそうだ。  無意識なのだろう。  俺の後ろに隠れるようにしているのがいい証拠である。 「……」  俺はどうするか迷っていた。  この子を引き渡して楽になるか。  口封じとか言って危害を加えてくる可能性は否めないものの、あの黒スーツ達相手に大立ち回りするより余程安全だ。  この子には悪いが、所詮他人。自分の命と他人の命、どっちが大事かなんて比べるまでもない。  ――いつも、こうならないように心がけてきた。  交友関係は広く浅く。相手に深く立ち入らないし、相手にも立ち入らせないようにしてきた。全ては厄介事に巻き込まれたくないから。  そう、まさにこんな状況に巻き込まれないためだ。  何よりも厄介事を嫌うのが俺――八重坂真優(やえさか まゆう)の全てじゃないか。 「っ……」  何も迷う必要なんてない。  そのはずなのに。 「おじさん……?」  不安げに瞳を揺らせたあの子――三葉(みつは)が呼びかけてくる。  いつもの俺なら『まだおじさんじゃねえ!』と声高に言い返していただろう。  だがそんな事どうでもいい。  今はただただ、取り縋るような声と、コートの裾をつまむ手から伝わってくる震えに、頭を打ちつけられるかのような衝撃を覚えていた……。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!