87人が本棚に入れています
本棚に追加
「なっ、に……」
「動かぬこと、感謝する。その身に受けよ、四錐鎌鼬!」
まさかの反撃に動揺を露に立ち尽くす黒狐。
小太郎は忍刀を支えに立ち上がると、印を結び唱えた。
すると先に打った四つの苦無からたちまち緑光が湧き出し、一筋の光が苦無を結び始めた。苦無が光で繋がると、黒狐を包み込むように頭上へと光の筋は伸びて一点に集まり、更には四面に壁を成すように緑光が広がった。
それは光が織り成す舞踊のようであった。風に踊り揺れながら形を作る、美しくもある光景だ。しかし実際には流れる程に瞬く間の出来事だ。
小太郎が唱えてから刹那の間を置いて、辺りに黒狐の絶叫が響いた。
光の中で黒狐が仁王立ちしたまま声を上げている。それは悲鳴にも似ているが、どこか憎悪の念を叫んでいるようにも聞こえる。
そして声と反して、きりきりとまるで幾百の鼠が声を上げているような音が黒狐に纏わりついていた。
光の中では、旋風が幾つも起こり黒狐の体を包む。そしてその風に赤い雫が乗り、緑光の中は血煙が舞い汚れた色へと変わっていった。
小太郎は印を結んだ右手を口元に宛がったまま、じっと黒狐を見つめていた。鮮血に染まりゆく中で、何度も点滅を繰り返す赤い光がある。
「あれは、もしや……」
最初のコメントを投稿しよう!