六◆死闘

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視線を変えた先で黒狐が光に包まれている。あの光も尚、小太郎の力によるもの。これ以上に術を使わせてはいけない。 せめて、この結界だけでも── 募る焦りに目線が辺りをさ迷う。 その時。 「いけねえっ、五代目えぇ──!」 横から絶叫が鼓膜を震わせた。導かれるように目が小太郎へと泳ぐ。 「しゅ、くん……?」 声が喉に張り付いたように、息が詰まるような感覚に陥った。 あれは、なんだ。 あれは、幻ではないのか。 あれは── 「しゅくんっ、主君! 主君──!」 悲鳴にも似た声が出た。何度も何度も。 視界に映る光が柔らかく消えていく。 風が止むように、ゆっくりと光と共に空へと消えていく。 ぼんやりと暗くなった視界の中で、光という光が消失した。 黒狐を包む光も、これまでに小太郎が纏っていた光も。 夜闇が、雪の織り成す青白い夜闇が戻る。 狛の目に揺らいで映る影。 白銀の髪、忍装束に纏った白き腰布。 その人影を、細い筋が貫いている。 細き影を辿り目線を横へ動かせばそこに居た。 この暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる、白い狐が。
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