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「というわけで、そこをどいてもらえます?」
重く、低い。空を切る音は残された静寂に響き、そして鋭利な槍の刃が狛を睨む。だが殺気が向けられているのは、狛の背に隠された風魔小太郎であった。
狛は肩越しにその切先を見据え、それからゆっくりと主の体を雪上へ横たわらせる。
いつの間にか小太郎の目は閉じていた。狛の手に包まれていたその手は印を崩し、力無く腹の上に落ちる。か細い息は荒く、一刻も早く手当をしなければならない状態である。いや、体を貫かれたのだ。果たして手当の術はあるのか。その命、取り留められるのか。
わからない。
わからないが、それでも白狐にやすやすと亡き者にされてはいけない。
狛はゆらりと立ち上がると、放った我が忍刀を手に取り白狐に向け身構えた。背後に小太郎を置き、一つ、喉を鳴らす。それは緊張故か、恐怖故か。額から滲み出た汗が、輪郭をなぞり顎先で雫となる。
「ふふふ、戦うのですか。この私と。困りましたねえ、父上に生かしておけと言われた以上、貴方を殺す訳にはいかないのですよ。知ってます? 半殺しって、結構難しいんですよ」
「随分と喋るのだな」
「ええ。こうして話している間に、どう動こうかと考えているのですよ。だってほら、あちらでは大きな手裏剣を手にずっと隙を伺っている方も居ますし」
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