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揺れる燭火、揺れる影。
少年は床を睨み、唇を噛み締め、両膝に乗せる手を震わせた。
泣いているのか、と聞かれ少年は首を横に振る。
悲しいんじゃない、辛いんじゃない。
ただただ、滲んだ世界が零れてしまわないようにと、ひたすら強がって。
己を憎んでいた──
* * * *
「なんでだよ五代目! 俺たちだけで十分だろうが! なんでそんな役に立ちそうもねぇ奴を受け入れなきゃならねぇんだ!」
抗議の声が少年の背にぶつかる。
それは冗談や悪ふざけなんてかわいいものじゃない。心から発せられた気持ちが怒声になっていた。
それを物語るかのように少年の背後で床に拳が叩き付けられる。
直接見ることはできないが、それが怒りを表しているのを少年は感じた。
「やめないか、魁」
「っんだよ、狛! お前だって思うだろ!?」
「魁」
怒りに震える者とそれを宥める者。
怒気を露にする声とは違う、一方のその冷静な声音に、少年は庇ってもらえたような感覚を抱いた。
しかし──。
「言っていることに理解はできる。ただ、主君の前だ、言葉を慎め、と私は言いたいのだ」
そう現実は甘くない。
「あ、あの……」
少年はゆっくりと顔を上げた。
もういいんじゃないか、と投げやりな思いが心を占拠していた。
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