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「お前はなんだ」
「え?」
「五代目が奮って戦っているときに、お前は陰で見物かよ」
「ち、ちがっ、俺は……!」
魁の言葉に、猪助は瞳を揺るがせながら声を張った。
だが、魁の目には冷めた色が浮んでいた。
蔑むような視線が、猪助の胸を突き刺す。
「か、魁……俺は」
「そうだよな」
「え?」
「お前が五代目近臣になってからこの一年、巡視には出たが敵襲なんてなかったもんな」
一年。
長いようであっという間のその日々は、平穏であった。
忍里の外に出ることはあった。それは、風魔小太郎が仕える北条家に呼ばれてのことだ。
ここ足柄山を抜け小田原城まで──そう今宵のように主の供をした。
しかし敵襲どころか、山賊にさえ出くわすことはなかった。
故に、こうして戦闘の場に出くわすのはだいぶ久方ぶりのことである。
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