二◆心々

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二本の大杉に張られた標縄(しめなわ)をくぐると、そこは黒と白の相対する世界に包まれていた。 夜空を覆う厚い雲が生み出す闇と、大地を、木々を、家屋を一色に覆う雪との。 足柄山(あしがらやま)の奥深くにあるここが、風魔小太郎率いる忍衆の暮らす里だ。 風魔一党は隠語としての役割も含め、里を〝隠臥(いんが)〟と呼ぶ。 この里で生まれ忍として育ち、この里で夫婦(めおと)を結び、終焉の時まで忍として生きる。 そんな宿命を持った者たちが暮らしてきた忍里。 長が五代目となった今では数は減り、およそ七十人の忍が暮らしている。 「おかえりなさいませ」 「ご無事で」 二本の大杉に就く見張番に声をかけられながら、小太郎は里を貫く大通りを進んだ。 大杉二本の入口、南東から北西へと貫くような大通り。 両脇には寝静まった屋敷がつらつらと佇んでいた。 中には空家さえある。それだけ、里の人口は減っていた。 大通りを進んだ先には、立派な門がある。 太くてがっしりとした一本杉の鏡柱に、これまた幹を丸々使われた冠木。屋根は太い角材の軒に、板葺き。 それらは全て焼杉が使われ、美しい黒の木目を表情に出したその門は、厳かな雰囲気をかもし出していた。
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