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何を思うか、何を感じているのか。
小太郎はしばし暗がりの中に立ち、静寂とひんやりとした室内に身を染めていた。
そこへふと響いたのは、入口の戸を叩く音。
静けさの中、唐突に聞こえた音。
しかし小太郎は驚くこともせず、それに応えた。
「狛か、入れ」
「失礼します。……なっ、主君!」
呼ばれて、姿を見せたのは狛。
だが、部屋へ入るなり狛は焦りの声をあげた。
「火もつけずに、風邪をひきます!」
今しがた、冬の夜道を歩いてきたばかりだ。
山深きここはぐんと冷え込む。
体を動かしてきたとはいえ、寒いものは寒い。
狛の声も白い息となって部屋へ消えた。
それだけ、室内は冷えきっている。
狛自身も胴服を羽織りたい気持ちであった。
なのに、そこに佇む主は忍装束のまま。
確かに小太郎のそれも、狛が着ている衣装も冬仕様のものである。綿が織り込まれた忍装束だ。
しかしそれでも、寒さを感じる。
囲炉裏のすぐ側に火種箱を見付け、狛は足早に中へ進んだ。
「火を灯します。囲炉裏にあたってください」
だが、抑揚のない声がそれを制した。
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