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だが、背後から向けられる視線は冷たい。
それを知っていての優しさなのか。
主なりの気遣い、というものなのか。
嬉しいはずなのに、少年は素直に受け止められず、逃げるように視線を逸らした。心に浮かぶのは皮肉めいた疑念ばかりで、顔にすら出ているのではないかと思ってしまう。
『二曲輪猪助、お前を我──五代目風魔小太郎の近臣に任ずる』
そう言って左腕に捺された〝証〟。
事実上、少年は既に五代目小太郎の近臣だ。夢が叶っているのだ。
それなのに、心は泣く、渦を巻く。
返す言葉も見つけられず、沈黙が流れる。
だが、静かな声がそれを破った。
「猪助」
「……はい」
「四代目からお前の働きぶりはよく聞いていた」
「そんなこと、世辞の一つです。実際……俺のせいで四代──」
「だが四代目の遺志は我に関係ない」
遮る言葉に思わず顔を上げた。
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