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一つ、鐘が鳴った。
厳かに聳え立つ、古い時計塔。
――その最上階、
歯車の音が室内に響く。
部屋の隅の椅子に腰掛けていた少女が立ち、大きな鐘――古時計の下に向かった。
水色の長い髪がユラユラと揺れる。
その少女はエプロンドレスの様な衣装を身に纏い、表情はまるで人形の様。
――いや、人形なのだ。
まるで生きているかの様な透明感を肌に宿しているが、少女は人形。
でなければ300年も動く筈が無い。
食事を摂る筈が無い。
「ジェラード」
幼い少年の様な声。
その声がしたのは、ジェラードと呼ばれた少女の後ろからだった。
声の主は…歯車、の形をしたロボット。
どういう原理で跳ねて居るのか全く不明だが、そのロボットは跳ねながら移動して来た。
「なぁに?ギザちゃん」
ロボットは『ギザちゃん』というらしい。
300年前の誰かは『ギザギザ』といって居た。
名付け親のセンスを疑うところだが…名付け親は少女では無い。
元々は300年前の誰かが名付けた名前に依存している。
「ジェラード、先に螺子を巻きなよ。そろそろオイルを塗らないと錆びてしまうし」
「分かったわ。でもこれが終わったらね」
少女は揃えていた足を前に出した。
「ねぇ、ジェラード」
少女はまた立ち止まる。
「なぁに?ギザちゃん」
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