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「すまない、君の悲しみの方が大きいのに…」
そう言いながらポケットから出したハンカチで目頭を拭う。
いや、僕はーーー
「くっ…」
口を開こうとすると再び頭痛が来る。
だが今回は一瞬の痛みだった。
「無理に思い出そうとしなくていい。辛いだけだから」
違う。
その時の事だけではなく、両親がどんな顔をしていたかさえも思い出せない。
知らないのに、悲しいという気持ちが生まれてくるはずもなかったのだ。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
失った記憶は時間に任せるしかないだろう。
ならばこれからの事を聞かなければ。
「僕はこれからどうすればいいんですか?」
両親を失った今、一人で暮らしていくことを考えなければならない。
通っていた学校は退学しないとダメだし、生活のために働かなければいけない。
「それは心配には及ばないよ」
だが僕の不安な声を払うかのように優しい声で返答がきた。
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