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「おはよう……ございます」
か弱く、小さな声で俺は我に返った。
そうか。
俺はこの桜に心を奪われていたのか。
気味の悪い桜だよな。
声の主は、細雪だった。
「病室から出ていいのか」
「はい……1時間だけ」
細雪は僅かに怯えている。
もう怯える要素は無いはずだが。
虐待されると、そこまで心は傷つくものなのか。
改めて細雪の体を見る。
小さな体。
今にも折れてしまいそうな腕。
小刻みに震える足。
小さな唇。
大きな瞳。
この少女……細雪は、虚弱な体質だ。
分かっていた。
分かっていた、つもりだ。
だが、こうして見ると、酷いものだ。
「えっと……桜木……さん?」
「なんだ?」
「その……えっと」
こういう時間が、俺は本当に嫌いだ。
でも細雪にはあまり強く言えない。
今怒鳴ったりしたら、この少女は心身ともに壊れてしまうかもしれない。
そんな事が脳裏によぎったお陰か、細雪の言葉を待つ事が出来た。
「朝ご飯の時間……ですよ」
何という事だ。
今まで時間に関しては完璧だった俺が。
いくら病院の朝ご飯とはいえ、時間だけは完璧でいたかったのに。
………待てよ。
確か病院の朝食の時間は8時30分。
俺は。
俺は―――……桜を2時間以上見ていたのか……。
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