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一分程すると、看護師が病室にやってきた。 容姿は普通だが、どことなく頭が悪そうだ。 こんなのに世話をしてもらうなんて、最悪だ。 看護師は透明な液体の入った注射器を少女の細い腕にうった。 少女の顔色は少しずつ、けれども確実によくなっているのがわかった。 「君がナースコールを押してくれたんだね。ありがとう」 「いえ、大した事はしていません。 それより、彼女の病気は何ですか? 出来るならば、教えてください」 そんなくだらない事を聞いてどうするんだ? そう思ったが、俺はなぜか答えを期待した。 知りたかったんだよ。 好奇心? 違うな。 違う。好奇心ではない。 少なくとも、ね。 ならば何故聞いた? 理由は自分でも分からない。 だけども、彼女の事は無性に知りたかったんだ。 「このコは……両親に虐待をされていて、そのせいで体が弱くなってしまって……心も限界まで疲れきっていたから、入院しているのよ」 体が弱い、か。 虚弱体質と言うことか。 それにしてもまだ自身の子を傷つける親がまだいるのか、と思って溜息をつく。 なら、この少女の異常な怯えっぷりも説明がつく。 「そうですか、ありがとうございます」 「名前は細雪 眞由って言うのよ。仲良くしてあげてね。」 仲良く? さっき怯えられたばかりなんだが。 この看護師、やはりどこかぬけている。 一時間は経っただろうか。 俺はベッドで本を読んでいた。 両腕骨折と言っても、本は読める。 その程度のもの。 だから、金の無駄と言ったんだ。 「…………ん」 隣から、小さな声。 細雪眞由が起きたらしい。 にしても、「ささめゆき」。 珍しい苗字だな、と思った。 隣の少女に興味はない。 ましてや、話そうなんて微塵も考えていない。 そのはずだったのに。 「大丈夫か?」 「………え?」 俺は、自分で覚えている限りでは、自分から人に話した事は一度もない。 ましてや、大丈夫か?って。 馬鹿じゃねぇの。 でも、不安だった。 隣の少女の事は、放っておけないんだ。
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