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「あ……はい」
「そうか」
細雪はびくん、と小さな肩を震わせた。
強く言ったつもりはないな。
細雪が勝手に怯えただけだ。
両親に虐待をされる。
それがどれ程の恐怖か。
悔しいが、俺は分からない。
よく見ると寝間着(ねまき)から飛び出している肢体にはいくつもの痣や、切り傷があった。
首もとには、輪のような形をした痣があった。
大方首輪でもされていたんだろう。
大人達のそういうくだらない発想には感服の極みだよ。
「けほっ……けほ、けほ……」
また咳をしだした。
「…………」
大丈夫か、と言おうとした。
だが、大丈夫か、だなんて俺は一番言われたくない言葉だ。
それでも、言いたかった。
目の前の小柄な少女の安否が知りたかった。
「大丈夫か?」
「………はい、大丈夫……です。……ありがとうございます」
少女は苦しそうな顔をしながら、俺にありがとうと言った。
ありがとう?
なんでだよ。
俺なら、憤慨するよ。
分からないな。
俺には、彼女の考えは分からないな。
にしても、全然大丈夫じゃないな。
咳はますます酷くなっていたし、顔は蒼白、汗が吹き出していた。
「げほっ!!……ぁう……」
細雪はあまりの苦しみからか、涙を流し始めた。
その涙を見た瞬間、俺の心臓はドクン、と強く脈うった。
ベッドから立ち上がり、細雪の頬を伝う涙を、常備しているハンカチで拭ってやった。
無意味な行動だな。
なのに、したくなった。
細雪の涙は、見たくなかったんだよ。
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