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次第に涙を含む声に雅人は不思議と
優しい気持ちになった。
「それほど多くの問題を引き起こして
いるのは、貴方のように此方の力を
解放してしまった魂。
しかし…貴殿方に非はない。
分かってはいますが、私は貴方のような
子をなくすのは大変胸が痛みます。
どうか、死なないでください。
そして再び…貴方が望むなら再び…
ここに顔を出してください。」
痛いほどにギュッと抱き締められる
雅人は、ゆっくり王妃の腕をほどいた。
「王妃、僕は今の現状を夢だと思う
気持ちは変わりません。
しかし、どんな状況でも僕を想い、
涙を流してくれるのをとても嬉しく
思います。」
王妃の涙を指で救えば、雅人の心に
渦巻いていた恐怖は打ち消されていた。
戦う度胸なんてない。
それは代わらない、しかし、何もせず
失う方が堪えがたいものだと雅人は
知っている。
「守りたいモノもある。
簡単に差し出せるほど命は軽くない
けど、赴くには十分の理由です。」
「その通り、命は軽くない。
特に人間は肉体を失っては取り返しが
つかなくなることを忘れるでないぞ。」
「分かりました、
ありがとうございます。」
王に微笑みを向け、右手を胸に当て
2人に最大のを敬意を払った。
「では行きなさい。
貴方が戦に赴くのが運命ならば、
神は貴方に武器をお与えになる。
その在処は優希に聞けば導いて
くれるはずです。」
「分かりました。」
「無理はしてくれるでないぞ。」
ズキッ…
何の前触れもなくそれは雅人を襲った。
頭の奥に走る痛みは頭が割れそうな
ほど強く、次の瞬間、脳天から矢を突き
刺した。
「うわぁぁぁ!!!!!!」
頭を押さえ表情を歪め、悲鳴をあげ、
膝をついた雅人に2人は心配し近寄る。
自分の中で切り裂けるような痛み、
沸き起こり流れてくる知り得ない
感覚に震え出す身体。
「大丈夫ですか?」
王妃は白い光を放つ手で雅人の頭を
そっと撫でると雅人の表情は和らいだ。
「ありがとう…ございます……。」
「君の意識を通じて悪魔が此方の
世界に来てしまったのだろう。」
王の言葉は雅人の心に重くのし掛かる。
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