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思い返せば意識の世界を始めて
体感した時僕はただただ怖かった。
目の前で繰り広げられる戦いを
誰かに嘘だと言ってほしくて、
町の中を走り逃げまどった。
なのについて来る…
黒い羽の生えた人型の何かが…
「ったく何だよ、あれ...」
幼い時、興味本意で読んだホラー。
母さんに一人でトイレに行けなく
なるわよと念押しをされたのも聞かず
雅人少年は絵本を読み続けていた。
タイトルはてんしなきみ。
名の通り天使の少女と悪魔の話、
内容的には人間、困った時には
良い行いを天使が囁きかけ、
悪い行いを悪魔が囁きかけると
まぁ…何ともありきたりな話。
そして今、ハァハァと息が乱れるなか
全力で走る雅人の後を余裕の笑みを
浮かべながら追いかけてくる黒い
フードに身を包み、飛んでいるかの
ようにすぅーっと背後に忍び寄る姿は
絵本で見た悪魔と瓜二つ。
俄にも信じられない雅人は
頭で否定しながら逃げ続けた。
どんなに雅人が必死になれど、
逃げているだけでは勝てるわけもなく、
ましてや初めての体験に勝算を考える
余裕すら与えられてはいない。
遊び半分なのか、飽きてしまったのか、
悪魔に肩を押されバランスを崩し
勢い良く雅人は地面へダイブした。
擦りむいた足からは血が流れ
痛みがはしるが、歯を食い縛れば
何とか立ち上がれる。
こんな所で死ぬわけにはいかない。
痛みはまさしく本物、夢でもなければ、
幻でもなさそうだ。
しかし、雅人は痛みに耐えながら未だに
この現状を否定し続けていた。
この平和な日本の何処にこんなに
目立つ奴が生息していけると言うのだ。
とっくにテレビや新聞に出ていても
おかしくないような問題。
自分の所だけに来た?
いや、普通に考えてそれはない。
じゃもし…普通じゃなかったら?
雅人の頬を流れる汗、拭う暇すらない。
悪魔はすぐそこまで来ている。
何とかしなければ。
状況から抜け出す方法が見つからない、
でも何とかするしかない...
振り向けなくとも分かる、
影は確実に後ろにいる、
焦りだけが頭のなかを埋め尽くす。
次第に鎌のような形が視界に入り始め、
諦めが膨らんで思考が廻らなくなり、
立ち止まろうとしたその瞬間…
キィィィーーーン
鉄同士がぶつかり合う独特の音が
耳障りで頭の奥まで響き、思わず
立ち止まり振り返ると雅人はゆっくり
息を飲んだ。
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