道 標

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  ――唐突な質問だった。 そんな質問、された経験もなければ、もちろん応えた経験もない飯泉。 答えは簡単、『YES』だ。 だが、結論だけをさらりと告げてしまうのは、この少女にとって酷な気がした。 「……その話は…… 本当だ。 残念ながらな」 それでも、嘘を教える訳にもいかず、飯泉はやんわりと事実を伝えた。 「……どうして?」 少女にとってはもっともな切り返しだった。 大好きな父は、そんな残酷な事は云わなかった。 甲子園で野球がしたいと云った言葉を否定しなかった…… 「――どうしてって…… そりゃあ…… チビにも  判りやすく云うとだな……」 こんな小さな少女にも、それなりの悩みはあるんだな…… そう思いながら、飯泉は真剣に応えた。 「高野連のオッサンらは、石頭ばっかりってコト  だよ」 「…………」 その答えの意味が判ったのか否か、少女は何も云わずただ、風に揺れる水面の一点をみつめていた。  
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