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「男だってなぁ、どんなにがんばっても甲子園に
行けないヤツが五万といるんだぞ」
「…………」
「甲子園に行けないって判ったら、野球が嫌いに
なったか?」
ずっと黙っていた少女だったが、その質問には否定の意味を籠め、大きく頭を振った。
絶望感に支配されても、やはり野球を愛している。
状況が変わっても、その想いは何ひとつ変わってはいなかった。
「だったら、がんばればいい。 努力したことは
無駄にはならねえからな」
まるで、弱気になる自分自身への言葉のように、飯泉はそう少女に告げた。
「もしかしたら、野球の神様がご褒美をくれるかも
しれねえぞ」
――それは、ただ少女を励ますための気休めにすぎなかった。
何気ない己の言葉が現実のものになるとも思わず、飯泉は小さな少女の頭を大きな掌で二度、軽く叩いた。
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