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淡いようで深い夢を、彼女は手放せずにいた。
母親に必死に頼み込んで入団させてもらったリトルリーグで、彼女はスタートラインに立った気になっていたのだ。
そんな娘に父は、女の子はどんなにがんばっても甲子園には行けないなどと残酷な現実を告げられるはずもなかった。
ただ――
夢はいつか醒めるだろう……
それでも、努力した日々はきっと別の道で活かされるのだという事を学んで欲しい――そう願うだけだった。
彼女に大いなる夢を与えてくれた父が突然の事故で亡くなったのは、彼女が小学3年生の夏、うだるように暑い日の事だった。
まだまだ教えて欲しい事は山ほどあったのに――
彼女の慟哭(ドウコク)が、割れるように啼き続ける蝉の声を掻き消した。
――父の死が、彼女を頑ななまでに夢へと突き進ませたのかもしれない。
がんばってもどうにもならない現実が横たわっているとも知らず、
つらく険しい道が待ち構えているとも知らず、
彼女はただ一心不乱に白球を追い続けた。
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