憬れの場所

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  努力は決して裏切らない―― 彼女は、小学4年生ではじめてリトルリーグの試合に出場した。 また一歩、夢の階段を昇った気がした。 だが――…… 結果は惨憺(サンタン)たるものだった。 先発投手としてマウンドに上がった彼女は、ひとつのアウトも取れず、逆に相手に7点も与えてしまった。 結局、その試合はコールド負け…… 喜びの只中にあった彼女は一転、チームメイトの矢面に立たされた。 「――おまえのせいで負けたんだぞっ!」 人の捌けたグラウンドの片隅で、悔しさの収まらない少年が彼女の肩を突き飛ばした。 「女のくせに投げるから」 「そうだそうだ」 苦痛に顔を歪ませる彼女に、容赦なく浴びせられる罵声。 「おまえみたいなノーコンピッチャーは、邪魔な  だけなんだよ! 判ってんのか!?」 「おまえのせいでオレたちまで弱いって思われるん  だぞ」 反論の言葉もなく、彼女は口唇を噛みしめ無言で堪えていた。 その時―― 「――そのへんにしといてやれよ」 チーム内のリーダー的存在である背の高い少年が、ゆったりとした足取りで揉め事の輪の中に割って入った。  
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