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――その空は今日も、碧く澄んでいた。
絵の具では出せない、ホンモノの“碧”――
決して触れる事のできない紺碧の空を流れる旋風(カゼ)が、汗ばむ頬を撫でる。
瞳を閉じればもう、そこは己との闘いの世界。
擘くような歓声も怒号も、彼女の耳には届かない。
切れそうなほどに研ぎ澄まされた神経を解き放つように天を仰ぎ、灼熱の陽射しに焼けつくマウンドの黒土にそっとスパイクを這わせた彼女は、大きく深く息を吐いた。
見上げた“蒼”に、よぎる想い……
たやすい道程ではなかったからこそ、しなやかな左手に握られた白球の穢れなき重みが心にのしかかる。
だが彼女は、その想いすべてを心地よい重圧(プレッシャー)に変え、果てしない夢の1球を投じるべく、ゆっくりと振りかぶった。
いま、
この瞬間、
ここに立っている奇蹟を噛みしめながら――……
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