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「赤い海って言うのは、どうにも…なぁ。」 瞬いた後、世界は随分と赤味を帯びた紫に包まれた。 喫煙具から浮かぶ火の色も、それに染まっていた。 「…ふぅ…。心中穏やかにはさせてもらえないなぁ。」 肺を満たした煙を吐き出し、ゆったりと辺りを見回した。 人は、いない。 やたらと強い風が吹き抜けていくだけの景色だ。 遠く、海の向こうに移っていた群像は、もはや影すら見あたらない。 「なにかお困り?」 背後から届く声は覚えのある、知らない声色。 「あぁ、少しね。君はどうしたんだい?」 振り返れば、やはりそこには、彼女がいた。 「あなたが困っていそうだから、駆けつけたのよ?」 「それは嬉しいね。で、どうしてくれるんだい、春の君。」 軽く俯き、苦笑しながら言う俺に、彼女は満面の笑みで答えた。 「何も。ただ、あなたは進めばいいだけよ?それできっと、春がくるわ。」 くるり、ひらり。 彼女は舞うように円を描きながら、通り過ぎた。 「またね。」 追いかけた視線が、彼女を見つけることはなかった。
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