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背後から、声だ。 今日はよく後ろから声をかけられる日だ。 振り返った先には、見知った彼の姿。 全身、黒の革の服。真っ赤な逆立った長い髪。 「なんだ、兄貴か。相変わらず、悪人面だな。」 眉のない、切れ長の目つき。どう見ても、一般人じゃあない。 「てめぇが人の事言えたもんかってんだ。金髪ヤン毛が。」 「まぁ、兄弟だからな。」 顔はそんなに似ていないが、雰囲気は似ているらしい。 「で、何してたんだ?」 何処で手に入れたのかわからない煙草に似たソレに火をつけ、大きく吸い込みながら彼は問うた。 「散歩…だけど、どっちに行こうかと思って。」 俺は件の分岐路を差した。 「あぁ、どこいきたいのよ。」 「ぁー…決めてねぇ。」 「ハハッ、相変わらず、バカだねぇ。」 懐かしい笑みを浮かべながら、彼は左の道を指さした。 「とりあえず、海岸線歩いてきゃぁ、なんとでもなるわ。」 右はやめとけ、なんもねぇよ。と、小さく付け足しながら。 「はいよ、ならこっち行くわ。」 俺は指示された道に足を向ける。 「ま、気ぃつけていけや。」 彼はそう言い、右の道へ歩いていった。 「あんたもな。また、あんたのライブにでも呼んでくれよ。」 彼は背のまま、右手を上げ、 「金は払えよ?」 そのまま透明へ消えていった。 「ファッキン・ブラザー。ちくしょうめ。また会いに行ってやるよ。」 脚は、前へ。 俺もまた、別の透明へ。
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