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一切の存在がない。
此処には、何もかもが皆無だ。
歩いているのか、止まっているのかもわからない。
とにかく、自分の脚を動かすことで、進んでいる“らしい”ことを確かめる。
道らしき某かが、ひたすらまっすぐ延びている。
「そろそろ煙草もきれそうだから、いい加減、どこぞに出て欲しいもんだな。」
ただの独り言だ。
いつまでも続く道の意味不明さにぶつけてみた。
やがて、煙草を2本ほど、ゆっくり吸い終えたあたりで、まだ先に光が見え始めた。
恐らく、出口。
「ねぇ。どうしてそっちに行くの?」
神出鬼没の例の女だ。
「あぁ、兄貴に勧められたんでね。」
どこから現れたのか、彼女は俺の横にいた。
「だめよ、こちらでは春へ遠回りしてしまうわ。」
不安とも不満ともとれる表情で、俺の腕を引く。
「あぁ、そいつはすまなんだが、生憎と煙草がきれかけなんだ。」
今更きた道を戻る気はサラサラない。
それに…、
「あんた、なんとなくまたキャラが戻ってきたな。」
どうにも、最初の印象に戻りかけの彼女には、なんとなく不安を掻き立てられた。
「あなたが、少し春を遠ざけたからよ。」
「また、雪でも降るのか?」
「そうならないように、あなたには進んでほしいの。」
いつの間にか、俺は季節を司る神か精霊になったらしい。
まったく、笑えん話だ。
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