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ああ、なんでまた、こんな事に気づいちまったんだか。
俺は未だ表情を変えない彼女を傍らに置きながら、大きく吸い込んだ煙を空へ放った。
「そんなもんですかね…?」
「さぁ?知らんがね。まぁ、話たけりゃ話したらいい。そんな時も必要なんじゃない?」
俺の薄っぺらな言葉に、彼女は俯くと、少し震える声で、ぽつりぽつりと言葉をならべた。
「…出会って、私が一目惚れでした。」
「自分をしっかり持っていて、生き方にぶれがない人。そんな印象だったなぁ…ほんとに最後まで“らしい”死に方しちゃってさ。」
「でも…居て欲しいときには、なんでか隣に居てくれるんだよね…なんか卑怯だよね、ああいうのって。」
一目惚れしたのに、またコロッとやられちゃった。と彼女は鼻声で呟いた。
「一緒になるか?なんて言ってくれた時には、舞い上がっちゃったのにね…次の日には、冷たくなっちゃってた。」
なんとなく、くわえていたフィルターを噛んだ。ぎゅっ、と嫌な感触が歯を伝い、抜けていった。
「…何年も前の事だし、友達もいい加減新しい男つくれ、なんて言うんだけどね…。やっぱだめなんだよね…。」
「あんたの言うとおり、ろくでもねぇ男なのは確かじゃねぇか。」
「え?」
不意に発せられた俺の言葉に、彼女はきょとんと惚けた顔を見せた。
「もしも誰かを愛したら、素直なこの気持ちを…なんて、ロッカーでも唄ってる事だ。」
「死んだら、伝える事も傍に居てやることもできないんだからさ、ろくでもねぇよ。」
ただ、なんとなく思ったことを言っただけだ。
彼女は俯いたまま、何も言わなかった。
「新しい男作りな。そんで幸せになるのが、弔いだよ。」
俺は吐き捨てる様に告げ、ベンチから立ち上がった。
くしゃくしゃのソフトケースは、もう空になっていた。
「…なんかね、似てたんだよね、雰囲気っていうか…。貴方がさ。」
「そのろくでなしに?」
そう、と答えた彼女は、苦笑しながら、少しすっきりした様な顔をしていた。
「ほんとに、心外だわ。」
「私は結構好みよ?」
クスクスと悪戯っぽく笑う姿は、何故か少し霧が晴れているようだった。
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