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 ……が、しかし。受話器の向こうからは、誰の声も聞こえてこなかった。不気味なほどにシンとしている。  訝しく思って、私は受話器を耳から離して観察してみた。別段、どこか壊れている様子もない。電波障害か何かだろうか。 「すみませんが、一度切りますね。また後でかけ直しますので」  聞こえていないかもしれないが、一応断ってから受話器を戻した。全く、とんだ時間の無駄である。  呆れ果てた私は、作業に戻るためクルリと踵を返した。 「……ん」  その時。視界の端に、何か見慣れないものがちらついた。  この部屋の隅に置いてある、予備の簡易デスクの上。そこには、赤、青、緑の三色スプライト柄の、ファンシーな立方体の箱が置いてあった。大きさは、ちょうどサッカーボールが一つ入る程度。私は首を傾げながら、デスクに歩み寄っていった。 「これは、一体……?」  ここ数週間、この場所に来客などない。当然、自分でこんな箱を持ってきたということもない。付け加えていえば、箱の柄が私の趣味ではない。つまりこの箱は、私が不在の間に何者かが勝手に置いていったものだということだ。  怪しい。非常に怪しい。開けてみるどころか、手に取ることすら躊躇われるほどに奇妙な物体だ。  私はゆっくり後退りをしながら、謎の箱から距離を取る。そしてある程度離れたところで、廊下へ出る扉のノブに、飛びつくように手をかけた。
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