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期待と……不安。自分の胸に、相反する感情が混在するのがわかった。
譲歩する、と。トリカブトはそう言った。
ここから出られるかもしれない。しかし一方で、そんなうまく話が運ぶとも限らない。結局、奴の手の上にいることには変わりないということだ。
トリカブトは、再びゆっくりと、心に絡みつくような声を届ける。
『先ほど申し上げましたように、入寮者様が死亡した場合、契約は自動的に破棄されます。しかし契約が破棄されても、当然のことながら本人はもういらっしゃらないわけですから、外に出ることはできません。そこで、契約破棄の権利譲渡を認めたいと思います』
「権利、譲渡……?」
俺は呆然として呟く。
『その通りでございます。端的に申し上げますと、死んだ人間の代わりに誰かが契約破棄することになる、というわけですね』
「ち、ちょっと待ってください……」
すると、そこで紅が呟くように声をあげた。
「誰かが死んだらって……。そんな状況、そうそうあるわけないじゃないですか。それにそんなの、何だか酷いです……!」
『酷いかどうかはさておき、人の死なんて、世間的に見れば日常茶飯事ですよ。作り出すことだってできますしね』
「作り……え?」
『死を作り出す、と申し上げたのです。簡単に言うと、“殺す”……というわけでございます』
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