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空気が凍りついた。
平然と、何のためらいもなく、さも当然のように、“殺す”……と。
トリカブトという男は、最悪の案を提示してきたのだ。
「おいおい待てよふざけんな! 人殺しなんて、そんな……できるわけねーだろ!」
『ならば、実行しなければいいだけの話ではございませんか』
「んだと……!」
榎戸は怒りの形相を露にし、立体映像に詰め寄ろうとする。だが、茶天がそれを手で制した。
「殺人を行うかどうかは別として。あなたの提案は、どうにも割に合わないわ」
『と、言いますと?』
「あなたの言い分だと、殺人が起こったとしても、“誰に”契約破棄の権利が引き継がれるのかわからないじゃない。それに何より、契約破棄というのはあくまで事務的な手続きに過ぎない。出ても構わない、と言われてるだけで、具体的な脱出口は教えて貰えないわけでしょう」
確かに、茶天の言うことには一理あった。人を殺しておいて、得られる対価としてはあまりにも乏しい。
別にトリカブトなどの許しを得なくとも、契約などに関係なく、脱出口を発見しさえすれば誰もがそこから出ていくに決まっているのに。
『なるほど、ではこうしましょう。殺人が起きた場合、契約破棄となるのは実行犯様。そしてその人物には、ここから抜け出すためのヒントを差し上げる……と。これでいかがですか?』
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