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「少なくともお前よりはな!」
「へえ。まあ、せいぜい頑張って人殺しなんてしないようにしてね」
「てめえ、ふざけんのも大概に……!」
榎戸が、つかみかからんばかりの勢いで奈々尾に詰め寄る。
すると、石川が唇を尖らせながら文句を垂れた。
「ちょっとやめなよー。空気悪くなるばっかりじゃーん」
「お前は黙ってろや!」
一蹴。さすがに石川でも、激昂した榎戸に食い下がるつもりはないらしく、そのまま黙ってしまった。
「だいたいよお、てめえ虫が良すぎんだよ。皆から離れて、自分だけ好き勝手しようとしやがって。誰かの目につく場所にいる、って約束だったけど、そんな口約束、守るかどうかもわかんねえしなあ!」
「なら、そんな危うい約束を求めてきたあっちのお兄さんに文句言って欲しいもんだけどね」
そう言って、奈々尾は俺にちらりと視線を向けてきた。だが、榎戸は俺には目もくれない。
「んなことはどうでもいいんだよ! 俺は、てめえがそうやって澄ました顔してるのが気にくわねえんだ!」
「だったら、何。あたしを殺してみる?」
「あーいいぜ、殺してやる! 俺のアイスピック、ブスブスぶっ刺して……!」
「いい加減にしてください、二人ともっ!」
その時。空気を震わす大音声が、広間中に炸裂した。音は壁で反射し、何度も俺達の鼓膜を震わせた。
こだまのようなその声が聞こえなくなった時にはもう、誰も口を開かなくなっていた。
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